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『市民公開講座』記録集のご案内
多発性硬化症(MS)
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の
治療と生活(仕事)の両立支援

2023年8月20日(日)開催

ご講演1 多発性硬化症(MS)ってどんな病気?

藤井 ちひろ 先生
(関西医科大学総合医療センター 脳神経内科 講師)

多発性硬化症(MS)とは

私たちの体の中を通っている神経の軸は、髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる鞘(さや)のようなもので被われているのですが、炎症が起こってこの鞘が壊れてしまうことがあります(脱髄)。MSは、自己免疫性の炎症による脱髄が脳・脊髄・視神経などの中枢神経に、場所を変え時間を変え繰り返し起こる病気です。症状や重症度、進行度は患者さんによってさまざまですが、一般的には早期発見・早期治療が望ましいとされています。

イメージ図:多発性硬化症 (MS)とは

発症要因と治療法

MSの発症に関わる要因としては、遺伝因子、環境因子、免疫反応が挙げられます。ただ、どれか一つの因子で発症するということではなく、さまざまな因子がさまざまな程度に関わって病気の発症につながると考えられています[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12]

現在、MSの再発や進行を抑えることを目的とした複数の疾患修飾薬が保険診療可能になっています。薬の効果や副作用の危険性などは患者さんによって異なりますので、新しい薬がいい、強い薬が必ずしもいいということではなく、ご自身に合った薬を使うことが重要です。

※疾患修飾薬:疾患の原因となる物質に作用して疾患の発症や進行を抑制する薬剤

就労実態にあわせた就労サポートを

現在、多くのMS患者さんは発症時に就労されている方が多いかと思います。厚生労働省のデータ[13]では、MS患者さんの就業率は、障害者手帳を持っていない場合は同年代で期待される就業率の約8割、障害者手帳を持っていると5割弱程度です。就労が難しい理由についてのアンケート[13]では、スタミナや疲れやすさの問題が圧倒的に上位になっており、倦怠感を感じることで就労を継続することが困難な患者さんが多いのではないかと推測できます。

ただ、医療者の立場から言うと、MSは基本的に「何かをやめてください、してはいけません」というような病気ではありません。個々の病態にあわせて就労サポートを受けつつ就労を継続する選択もあります。MSと共に生きていくためには、ご自身の病態について正しく理解し、「私のMS」がどのようなMSなのかを今一度確認することが重要です。就労が無理だとあきらめる前に、何か対策ができないか、ぜひ医師や看護師、病院スタッフにご相談いただきたいと願っています。また難病患者さんを対象とした就労支援制度[14][15]も整いつつありますので、ぜひ利用してみてください。

MSについては、医学的にまだわかっていない部分もありますが、わかっていることとわかっていないことを整理して、必要以上に恐れることなく、ご自身がどのように過ごしていきたいのかを考えながら、時には「えいっ!」と決断していただくことも大事ではないかと思います。

ご講演2 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)ってどんな病気?

吉倉 延亮 先生
(岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野 講師)

視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とは

私たちの体内では、免疫システムが働いて、体の中に入ってきたウイルスやばい菌などの異物を排除するようになっています。異物が体内に入ってきたことを免疫担当細胞が感知すると、体の中で抗体が作られ、異物を追い出すよう働きます。しかし、時として、免疫システムが自分の体を攻撃する抗体を作り出してしまうことがあります。このような疾患を自己免疫疾患と呼んでいます。視神経脊髄炎スペクトラム障害(以下、NMOSD)も自己免疫疾患のひとつで、アクアポリン4抗体という自己抗体ができて神経細胞を攻撃することがわかっています注)

注)NMOSD患者さんの一部には、アクアポリン4抗体がみられない(陰性)の方もおられます。

疫学と症状

NMOSDの患者さんの9割が女性で、多くは20~40代で発症します。日本全国の患者数は6,500人[16]です。症状は患者さんによってさまざまで、視力が落ちる方、手足の力が入りにくい方、痛みやしびれがある方もいます。脊髄に炎症が起きると、排尿や排便のトラブルを起こすこともあります。

症状は?(名前の通りの疾患ですが、広がりがあります) みえにくさ(視力、視野)・力がはいりにくい・痛みやしびれ・歩きにくい・過度な眠気・胃腸の問題ではない吐き気やしゃっくり・排尿や排便のトラブル

再発予防が重要

NMOSDは再発する病気です。失明したり、杖・車椅子生活を余儀なくされる場合もあり、後遺症が残ってしまう可能性もあります。再発の頻度や程度を減らすには、炎症を抑える急性期の治療だけでなく、次の炎症を起こさせないための再発予防の治療が重要です。複数の治療選択肢がありますので、どのような治療法が自分の症状や生活にあっているのか、不明な点や希望をぜひ医師に相談してください。

医療者と患者さんが一緒に治療法を決定する

治療法の選択について、以前は、医療者が治療法を提示して患者さんに同意をいただく形が主流でしたが、2023年現在、患者さんと医療者が情報を共有して合意を目指すshared decision making(SDM)の重要性がうたわれています。医療者は疾患や治療法に関する情報を提供し、患者さんにはご自身が抱えている問題や病気とどのように向き合いたいかをお話しいただいて、相互に理解を深めながら意思決定をしようという考え方です。私たちは患者さんのことを知り、寄り添いながら一緒に治療に向かっていきたいと思っていますので、ぜひ皆さんの思いや悩みを医療者と共有してください。

ご講演3 難病患者さんの就労支援
~長期治療を続けながら働くということ~

中金 竜次 氏
(就労支援ネットワーク ONE)

私は元々、看護師をしており、医療者の立場から就労支援に関わってきました。その後、労働行政の難病患者就職サポーター等を経て、現在は就労支援ネットワークONEのコーディネーターとして難病患者さんの就労支援に取り組んでいます。本日は、これまで多くの難病患者さんにお会いしてきた経験をもとに、就労に関する最新の情報や、治療と仕事を両立していくためのヒントをお伝えできればと思っています。

難病患者さんの就労の課題

難病患者さんの就労実態調査によると、2016年の多発性硬化症の方の就労率は32.8%でした[17]。医薬の進歩もあって、現在はさらに増加していると思います。難病の場合は一般的に、高齢者の方が障害者手帳取得率が高く、就労世代の方々がなかなか取得できない傾向があります。つまり、多くの難病患者さんが一般雇用で働くことを余儀なくされているのが現状です。

難病法の最新の改正のポイント

難病患者さんの就労支援体制はまだ十分とはいえませんが、2022年12月に改正された「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」では、大きく2つの進展がありました。まず、これまでは患者さんが自治体に「申請した日」から医療費助成が始まっていたところ、改正後は「診断された日」にさかのぼって助成が受けられることになりました。また、症状の程度に関係なくすべての指定難病患者さんに「登録者証」が発行されることになりました。つまり、軽症な方であってもさまざまな難病の福祉に関する施策に乗ることができる時代が訪れています。これまでは、医療費助成の対象外(つまり「受給者証」が交付されない)軽症の方は、ハローワークでの就労支援や障害福祉サービスを受ける際に、わざわざ診断書を取得する必要がありましたが、「登録者証」が交付されればこうした支援を受けやすくなります。ゆっくりとではありますが体制は整いつつありますので、積極的に支援制度を活用していただければと思います。

『WEB市民公開講座』記録集のPDF版はこちら

  1. C. J. Willer, et al: Twin concordance and sibling recurrence rates in multiple sclerosis. Proc Natl Acad
    Sci USA. 2003; 100(22): 12877-12882. doi:10.1073/pnas.1932604100.

  2. Sawcer S, et al: Multiple sclerosis genetics. 2014;13 (7) 700-709. doi:10.1016/S1474-4422 (14) 70041-9

  3. IMSGC, et al: Risk alleles for multiple sclerosis identified by a genomewide study. N Engl J Med. 2007; 30: 357(9): 851-862. doi: 10.1056/NEJMoa073493.

  4. IMSGC, et al: Genetic risk and a primary role for cell-mediated immune mechanisms in multiple sclerosis. Nature. 2011; 10: 476(7359): 214-9. doi: 10.1038/nature10251.

  5. IMSGC, et al: Analysis of immune-related loci identifies 48 new susceptibility variants for multiple sclerosis. Nat Genet. 2013; 45(11): 1353-60. doi: 10.1038/ng.2770.

  6. Pakpoor J, et al: Epstein–Barr virus and multiple sclerosis: association or causation? Expert Review of Neurotherapeutics. 2013; 8: Issue 3. doi: org/10.1586/ern.13.6

  7. RM Lucas, et al: Sun exp osure and vitamin D are independent risk factors for CNS demyelination.Neurology. 2011; 8: 76(6): 540-548. doi: 10.1212/WNL.0b013e31820af93d

  8. Salzer J, et al: Vitamin D as a protective factor in multiple sclerosis. Neurology. 2012; 20:79 (21) 2140-5. doi: 10.1212/ WNL.0b0133182752ea8.

  9. Ascherio A, et al: The initiation and prevention of multiple sclerosis. Nature Reviews Neurology. 2012; 8, 602–612. doi: 10.1038/nrneurol.2012.198

  10. Handel AE, et al: Smoking and Multiple Sclerosis: An Updated Meta Analysis. PLoSOne. 2011; 13, 6(1): e16149. doi: 10.1371/journal.pone.0016149.

  11. Healy BC, et al: Smoking and disease progression in multiple sclerosis. Arch Neuro l. 2009; 66(7): 858-64. doi: 10.1001/archneurol.2009.122.

  12. Munger KL, et al: Childhood body mass index and multiple sclerosis risk: a long-term cohort study. Mult Scler. 2013; 19(10): 1323-9. doi: 10.1177/1352458513483889.

  13. 独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター:難病のある人の雇用管理の課題と雇用支援のあり方に関する研究.職業場面における難病データ集. 2011.
    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/p8ocur0000000pxz-att/houkoku103-01.pdf

  14. 厚生労働省:難病患者就職サポーターによる専門的支援の実施.
    https://www.mhlw.go.jp/content/000845852.pdf

  15. 厚生労働省:治療と仕事の両立支援ナビ. https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/formedical/

  16. 難病情報センター:多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13). https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806

  17. 独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター:難病のある人の雇用管理の課題と雇用支援のあり方に関する研究.2011, p81.
    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/p8ocur0000000pxz-att/houkoku103.pdf

共催

ノバルティス ファーマ株式会社・中外製薬