3つの治療のポイント
治療のポイント1
早いうちからMSの治療を始め、それを続けることで、多くの患者さんは障害の進行・悪化を抑えることが期待できます。
治療のポイント2
MSの疾患活動性が高い場合は、最初の治療から高い効果が期待できる薬剤を用いることで、障害の進行・悪化を抑えられる可能性があります。
治療のポイント3
できる限り「あなたらしい生活」を続けるために、また、「やりたい」と思ったことを実現できるようにするために、主治医との「相談」は重要です。
MSは多くの場合、「再発(症状が出る)」と「寛解(症状が治まる)」を繰り返します。しかし、症状が治まっている寛解期であっても、MSが治ったわけではなく、水面下ではミエリンが持続的に障害されているといわれています。そのため、MSを治療せずに放っておくと、体の機能の障害が徐々に進行してしまうことも少なくありません。
また、MSを治療せずに放っておくと、脳の容積が減少(脳萎縮)し、脳萎縮の進行とともに、認知機能障害(集中力・理解力・記憶量の低下など)が現れることも少なくありません。
MSによる障害の進行[イメージ図]
![MSによる障害の進行[イメージ図]](/sites/tahatuseikoukasyo_jp/files/styles/twoup_layout_desktop_1080/public/2020-10/01-01_1.png?itok=QEUOlLPf)
“早いうち”からMSの治療を始めることで、障害の進行を抑えることが期待できます
再発寛解型に対する治療は…[イメージ図]
治療しないでいると…

治療を始めると…

早いうちから治療を始めると…

MSは多くの場合、「再発(症状が出る)」と「寛解(症状が治まる)」を繰り返します。そのため、MSを治療せずに放っておくと、体の機能の障害が徐々に進行・悪化してしまうことも少なくありません。
しかし、“早いうち”からMSの治療を始め、それを継続して行うことで、障害の進行を抑えることが期待できます。
再発寛解型(二次進行型)から二次性進行型に移行した場合の治療は…[イメージ図]
二次性進行型を治療しないでいると…

早いうちから治療を始めると…

再発寛解型から、再発がなくても体の機能の障害が徐々に進行していく「二次性進行型」(SPMS)に移行したとしても、今度はSPMSに対する治療を早いうちから始め、それを続けることが重要です。
「再発寛解型」および「二次性進行型(SPMS)」については、こちらを参照
治療のポイント1
早いうちからMSの治療を始め、それを続けることで、多くの患者さんは障害の進行・悪化を抑えることが期待できます。
この治療には、飲み薬(カプセル、錠剤)や注射剤(ペン型、シリンジなど)、点滴剤を使います。どちらの薬剤がよいかは、患者さんの状態によって異なりますから、投与回数や剤形も含め、主治医の先生と相談しながら決めるとよいでしょう。
寛解期の治療を始める時、長期的な安全性・有効性を考えて、ベースライン薬と呼ばれる薬剤で治療することが多いです。
しかし、早期からMSの疾患活動性が高い時は、最初の治療から高い効果が期待できるMSの薬剤で治療することがあります(induction therapyといいます)。

治療のポイント2
MSの疾患活動性が高い場合は、最初の治療から高い効果が期待できる薬剤を用いることで、障害の進行・悪化を抑えられる可能性があります。
MSの症状を和らげるための治療:対症療法2)
患者さんによっては、MSの症状が出ている再発期が終わって寛解期になっても、感覚の異常や痛み、脱力、うつなどの症状が、完全には治まらずに残ってしまう場合があります。このような症状を和らげるために、それぞれの症状に応じた薬剤などを使います。
MSの症状が初めて急に出た/再発した時(急性期):主に副腎皮質ステロイド薬での治療1)
MSの症状が急に出た初発時や再発した時を「急性期」と呼びます2)。
急性期には、ミエリンで起こっている炎症をしずめ、症状を速やかに抑えることが大切です。
急性期には、ステロイド剤を点滴注射する「ステロイドパルス療法」が主に行われます。それでも効果がみられない場合は、「血漿浄化療法」が行われることもあります。

MSによって引き起こされる障害を軽減:リハビリテーション2)
障害を残してしまったとしても、リハビリテーションで、生活における障害の軽減が期待できます。
主治医・看護師に「相談」してみましょう2)
MSの治療は長期にわたります。そうなると、医師との関係が大切になります。
お互い人間ですから、ウマが合う、合わないがあるのも事実です。それでも、医師は患者さんのためになる多くの情報を持ち合わせていますし、医師自身も患者さんが必要とする情報を提供して、患者さんと二人三脚で治療を進めていきたいと考えています。
まずは医師に質問をしてみましょう。また、医師に言いだしにくい場合は、話しかけやすい看護師に「相談」するのも方法の1つです。

第一歩は、「ありたい自分」の「相談」から2)
MSの治療で大切なこととは、何でしょうか?
患者さんは、患者である前に「ひとりの人間」でもあります。病気を少し忘れて楽しむことも大切です。
そのために、医師や看護師に「どうあり続けたいのか」「何を実現したいか」などを「相談」してみることもお勧めします。

治療のポイント3
できる限り「あなたらしい生活」を続けるために、また、「やりたい」と思ったことを実現できるようにするために、主治医との「相談」は重要です。
1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎 診療ガイドライン2017』医学書院 p101-102, 160-165 2017年
2)深澤 俊行 編 『やさしい多発性硬化症の自己管理 改訂版』医薬ジャーナル社 p30-31, 35-37, 45, 54, 126 2016年
あなたらしい生活の「相談」ができたら
治療や日常生活での疑問も聞いてみましょう。
よくある質問は以下にもあります。
よくある質問は「多発性硬化症Q&A」ページに掲載しています。
多発性硬化症(MS)Q&A 治療のこと
Q. 自覚症状がない時は、お薬を止めても大丈夫ですか?
A. 中止できるお薬もありますが、急に止めると、その反動で症状が悪化する場合もあります。
いずれのお薬も自己判断で止めたりはせず、必ず主治医にご相談ください。
多発性硬化症(MS)の治療には、
(1)症状が治まっている寛解期に、MSの再発を防いで進行を抑えるために行われる「疾患修飾療法(DMT)」
(2)寛解期になっても残ってしまった症状を和らげるために行われる「対症療法」
(3)DMTや対症療法で使用するお薬の副作用を抑えるために行われる治療
など、大きく3つあります。
このうち、症状がなくなることで中止できるのは、(2)の対症療法です。痛みやしびれ感、排尿障害、つっぱりなどの症状が改善すれば、これらの症状に対して出されていたお薬は止めることが期待できますし、(3)の対症療法の副作用を抑えるために出されていたお薬も止めることが期待できます。
ただし、(2)の対症療法で使用するお薬の中には、急に服用を止めると、その反動で症状が悪化する可能性(離脱症候群)もあるため1)、服用を止める場合は少しずつ量を減らすなどの対応が必要になることがあります。しかし、いずれのお薬も自己判断で止めたりはせず、必ず主治医にご相談ください。
MSの再発を防いで進行を抑える治療(DMT)は、“長期的な視点”をもって続ける
一方、(1)のDMTという治療は、今ある症状を改善するための治療ではなく、MSの再発を防いで進行を抑えるなど、患者さんの将来のことを考えて行われる治療です。したがって、副作用があって続けることが難しいなどの事情がなければ、基本的にはDMTのお薬を止めることは考えないほうが良いでしょう。脳を含む中枢神経系を長期にわたって良い状態に保つためには、DMTのお薬をきちんと続けることが大切です。「今、調子が良いから、薬はもう止めてもいいや…」と考えるのではなく、“長期的な視点”をもって治療に取り組み、お薬を続けていただきたいと思います。
私のこれまでの診療経験からお話ししますと、お薬をきちんと続けられない患者さんには、「ご自身がMSである」という事実を受け入れられていない方が多い印象があります。「自分はMSのはずがない!だから薬は飲みたくない。必要もない!」ということで、治療を拒まれる方も一部いらっしゃいます。しかし、逆にいえば、病気であることをきちんと受け入れることができれば、治療を続けられる方が多い印象もあります。
まずは勇気をもって、ご自身の病気と向き合うことが大切です。それができれば、おのずと前向きな気持ちで治療に取り組めるのではないかと思います。

1) 日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』医学書院 p267 2017年
【回答】東北医科薬科大学 医学部 老年神経内科学 教授 中島 一郎 先生
Q. MSの治療は、一生続けなければいけないのですか?
A. MSの再発を防いで進行を抑えるための治療(DMT)は、きちんと続けることが大切です。
症状や疾患活動性などを定期的に確認しながら、将来のことを考えて、DMTを長期にわたって続けたほうが良いでしょう。
多発性硬化症(MS)の再発を防いで進行を抑えるための治療(疾患修飾療法:DMT)をいつまで続けるべきか、いまだ明確な結論は得られていませんが、基本的には、DMTは長期にわたってきちんと続けることが大切だと私は考えています。
ただ、MSの経過が長くなるにつれて再発が減少することも指摘されており1)、加齢とともに病状が落ち着いてくる方もいらっしゃいます2)。ですから私は、「症状や合併症の有無、疾患活動性などを定期的に確認しながら、DMTを続けていきましょう」と、患者さんに伝えています。
「将来、障害のない状態でいること」を目標に、今できる治療をきちんと続ける
現在20代、30代の方にとっては、高齢に至るまでの年月は長いと感じられるでしょう。しかし、30年後、40年後、50年後などを想像してみてください。治療をきちんと続けていれば、「将来、障害のない状態」が維持できている可能性が期待できる一方で、治療を中断して病気が進行すると、身体機能や認知機能が低下して、日常生活に支障を来すことも考えられます。
「将来、障害のない状態でいること」を目標にしながら、今できる治療をきちんと続けることが大切だと思います。

1) 日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』医学書院 p116 2017年
2) 特定非営利活動法人 MSキャビン『多発性硬化症完全ブック 第4版』p70 2018年
【回答】東北医科薬科大学 医学部 老年神経内科学 教授 中島 一郎 先生
Q. 症状が出現した時、それが再発なのか、お薬の副作用なのか、患者である私に判断できるのでしょうか?
A. 患者さんご自身で判断するのは難しいため、心配な症状が出現した場合は、必ず主治医に連絡して指示を仰いでください。
なお、副作用のほうが緊急な対応が必要な場合(アレルギー症状など)もあるため、注意が必要です。
日本では、多発性硬化症(MS)の再発を防いで進行を抑えるための治療(疾患修飾療法:DMT)として、複数のお薬が使用されています。DMTのお薬にも副作用が報告されていますが、例えば手足のしびれや頭痛などの症状が、再発なのか、お薬の副作用なのかを患者さんが判断するのは非常に難しいと思います。
したがって、何か心配な症状が出現した場合は、必ず主治医に連絡し、受診が必要かどうか指示を仰いでください。
心配な症状が出現した場合、どこに連絡をして誰に相談すればよいのか、事前に主治医と決めておく
症状の出現後、数日間はとりあえず様子を見ていても良いかもしれませんが、数日経っても症状が回復しない場合は、主治医の診察を受けましょう。必要に応じてMRI検査を行い、再発かどうかを判断することになります。
一方、お薬の副作用の場合、特に新しい治療法を導入した直後などは、再発なのか、お薬の副作用なのか、医師でも判断が難しいことがあります。また、副作用には、緊急の対応が必要となるものもあり、特にアレルギー症状に対しては注意が必要ですので、皮疹などの症状が出現したらすぐに主治医にご連絡ください。
緊急時にも迅速に対応できるよう、心配な症状が出現した場合は、どこに連絡をして誰に相談すればよいのかなど、事前に主治医と相談して決めておくと良いでしょう。

【回答】東北医科薬科大学 医学部 老年神経内科学 教授 中島 一郎 先生
多発性硬化症(MS)Q&A 日常生活のこと
Q. 今の仕事が好きなので、できれば仕事を続けたいのですが、可能ですか?
A. MSがあるからといって、仕事ができなくなるわけではありません。
ご自身の症状や日々の体調に配慮しながら、好きな仕事を続けているMS患者さんもいらっしゃいます。
経済的なメリットだけでなく、仕事を通じて社会との繋がりを実感できるという意味でも、人生において「働く」ということはとても貴重なものだと思います。「今の仕事が好きだから続けたい!」というご希望がおありなのでしたら、主治医やご家族、会社の上司や同僚など、周囲の方のサポートを得ながら、お仕事を継続されてはいかがでしょうか。
「ウートフ徴候」を防ぐなど、工夫しながら無理のない範囲で仕事をする
多発性硬化症(MS)が理由で就くことができない職種や、できない業務などは特にありません。肉体労働も、無理のない範囲であれば可能です。ただし、MS患者さんでよくみられる症状の1つに、体温の上昇によって一時的に症状が悪化する「ウートフ徴候」がありますので、気温・室温が高く熱気がこもるような環境で働いている方は注意が必要です。その場合は、「涼しい場所で適宜休憩する」「水分補給をする」「脇の下や首を冷やす」などの工夫をされるとよいでしょう。
なお、「ふらつきがある」「手足が動かしにくい」といった症状がある方は、高所作業は他の人に代わってもらうなど、危険を伴う業務は避けることが望まれます。
無理をし過ぎるのはよくありません。もし、「今までより症状を強く感じるようになった」「これまで難なくこなしていた業務が難しくなってきた」などの“変化”に気付いたら、早めに主治医にご相談ください。症状や職場の状況などにもよりますが、できるだけご本人の希望に沿うようサポートしてもらえると思います。

【回答】九州大学大学院 医学研究院 神経内科学 教授 磯部 紀子 先生
Q. スポーツが好きなのですが、してもいい運動や、しないほうがいい運動などがあれば教えてください。
A. ストレッチやヨガ、ウオーキング、水泳などのスポーツを、無理のない程度に楽しんでください。
なお、運動する時は、こまめに休憩したり、クーリングしたりするなど、体温や気温の上昇に注意してください。
無理のない程度の運動は、体力や筋力の維持、気分転換などに有効と考えています。したがって、症状のない寛解期に、ストレッチやヨガ、ウオーキング、水泳などのスポーツを楽しんでいただけたらと思います。
「ウートフ徴候」に注意しながら、好きなスポーツを楽しむ
してはいけないスポーツは特にないと考えていますが、体温や気温が上がることで一時的に症状が悪化する「ウートフ徴候」が現れる可能性がありますので、注意が必要です。「こまめに休憩する」「水分を摂る」「アイスバッグや冷却スプレーなどを使ってうまくクーリングする」など、体が温まり過ぎないように意識してください。
なお、これまで続けられていた、慣れているスポーツであれば、適度な運動量をご自身で判断できるかと思いますが、新しいスポーツを始める際はご注意ください。慣れるまでは決して無理をせず、少しずつ負荷を上げていくことをお勧めします。「どのようなスポーツを、どのくらい行って、翌日の疲れはどの程度であったか…」などをメモして、診察時に主治医と話し合っておくとよいでしょう。無理のない程度に、好きなスポーツを楽しんでいただけたらと思います。

【回答】九州大学大学院 医学研究院 神経内科学 教授 磯部 紀子 先生
Q. 旅行が好きなのですが、今後も国内旅行や海外旅行は可能ですか?
A. もちろん可能です。疲れを溜めず、無理のない範囲で旅行をお楽しみください。
なお、お薬の持ち運びなど、事前の確認・準備が大切です。
飛行機での移動や、留学など長期旅行の場合は、診断書や紹介状が必要になる場合もありますので、事前に主治医にご相談ください。
多発性硬化症(MS)であっても、旅行には特に制限はありません。無理のない範囲で、国内外を問わず、旅行を楽しんでいただけたらと思います。
ただし、いつも服用されているお薬の「持ち運び」には、ご注意ください。まず、服用しているお薬が「室温保存」でよいかどうかを確認し、「冷所保存」が必要であれば保冷バッグをご用意ください。その場合は、宿泊先で冷蔵庫が使えるかどうかも、事前に確認しておきましょう。
飛行機内へのお薬の持ち込みについて、覚えておいていただきたいこと
飛行機で移動される場合のお薬の「機内持ち込み」についてですが、機内で使用する分のみであれば、基本的にはお薬の機内持ち込みは認められています1)。
国際線では、液体物の機内持ち込みに制限がありますが、医薬品類は例外扱いとなっていますので、注射剤も、機内で使用する分のみであれば、機内持ち込みが可能です1)。なお、保安検査をスムーズに通過していただくために、診断書や処方箋、薬剤証明書などの携帯が望まれますので1)、事前に主治医に相談しましょう。ちなみに、機内で使用する以外の予備分のお薬については、スーツケースなどに入れて、手荷物として預けてください1)。
留学や帰省、長期の出張など、慣れない場所で生活される場合は、不安やストレスも大きいかと思います。再発してしまった時に急性期治療をお願いできる医療機関を事前に探しておくこともお勧めします。主治医に相談すれば、紹介状も書いてくれるでしょう。
事前にきちんと準備をしておくことで、不安を軽減できると思います。病状の変化にはくれぐれも気を付け、疲れを溜めず無理のない範囲で旅行をお楽しみください。

1) 成田国際空港株式会社 ホームページ 「医療機器・医療品」(https://www.narita-airport.jp/jp/security/faq/faq-05)
【回答】九州大学大学院 医学研究院 神経内科学 教授 磯部 紀子 先生
【総監修】
医療法人セレス さっぽろ神経内科病院 理事長
深澤 俊行 先生
よくあるご質問【病気・症状、日常生活、治療】に専門医よりお答えします