Q. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した場合、MSの症状や進行に影響はありますか?
A. MSがあるからといって、COVID-19の重症化リスクが必ずしも高まるわけではありませんが、注意が必要となる方やお薬があることが一部で報告されています。
ただし、自己判断でMSのお薬を減量・中止するのはやめてください。
一般的に、下記4つに当てはまる方が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した場合、重症化しやすいことが指摘されています1)。
①高齢者の方
②糖尿病・心不全・呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)の基礎疾患がある方や透析を受けている方
③免疫抑制薬や抗がん薬などを使用している方
④妊娠中の方
そのため、多発性硬化症(MS)が上記②の「基礎疾患」に該当し、COVID-19に感染したら重症化するかもしれないと、不安に感じておられる患者さんも多いのではないでしょうか。
MSの治療薬とCOVID-19の感染リスク
現在わが国では、MSのお薬として「免疫抑制薬」や「疾患修飾薬」が使用されていますが、これらのお薬で治療を受けているMS患者さんで、COVID-19の感染リスクが高まるといったデータはありません(2020年3月30日時点)1)。
むしろ、患者さんの自己判断で免疫抑制薬や疾患修飾薬を減量したり中止したりすることで、MSが再発したり悪化したりするおそれがありますので、原則としては同じ用量で治療を継続すると同時に、患者さんはアルコールによる手指消毒やマスクの着用など、COVID-19を予防するための一般的な注意事項を徹底することが望まれます(2020年3月30日時点)1)。
COVID-19に感染した場合、注意が必要となるMS患者さんは?
現在のところ、MSがあるというだけで、COVID-19の感染により生命に関わるリスクが高まるといった報告はありません(2020年6月17日時点)2)。
しかし、下記4つに当てはまるMS患者さんがCOVID-19に感染した場合は、COVID-19の重症化、生命に関わるリスクが高まる可能性が指摘されていますので、該当する方は特に感染予防に努めてください(2020年6月17日時点)2)。
①60歳以上の方
②心疾患や肺疾患をお持ちの方
③進行型MSの方
④EDSS(総合障害度スケール)6.0以上の、体が不自由な方(EDSS 6.0:100mの距離を歩くのに片手杖が必要な状態)
また、MS患者さんがCOVID-19に感染した場合、「免疫抑制薬」は重症化リスクの1つと考えられています(2020年3月30日時点)1)。しかし、患者さんの自己判断で決してお薬を減量・中止したりせず、必ず主治医に相談し、指示を仰いでください。
今後注意すべきこと
COVID-19に関してはまだ不明な点も多く、MSであってもなくても、COVID-19に感染しないに越したことはありません。アルコールによる手指消毒やマスクの着用、石鹸による手洗い、社会的距離の確保、混雑場所の回避、咳エチケットなど2)、COVID-19を予防するための一般的な注意事項を徹底しましょう。
今後も、新たな報告や臨床データ、ガイドラインなどが発表される可能性がありますので、厚生労働省や日本神経学会、日本神経免疫学会のホームページなどで最新情報を定期的にチェックされるとよいでしょう。
1) 日本神経学会 ホームページ 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について」 2020年3月30日掲載
(https://www.neurology-jp.org/covid/20200330_01.html)
2) 日本神経免疫学会 ホームページ 「新型コロナウイルス感染症に関する多発性硬化症患者さんへの助言(2020年6月17日改訂版)」 2020年6月24日掲載
(http://www.neuroimmunology.jp/jpn/news/MSIF_COVID19_ver3%20200624.pdf)
【回答】慶應義塾大学 医学部 神経内科 教授 中原 仁 先生